今回は食べること・飲み込むことの障害である「嚥下障害」と,自動販売機のお話です.
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飲み物に入れている粉は片栗粉?
病院や施設にいる嚥下障害の患者さんが,飲み物に粉状のものを入れてとろみをつけるシーン,ご覧になったことがある方はいらっしゃいますか?
あの粉はとろみがつくといっても片栗粉ではありません.飲み物に均一なとろみをつけるために開発された,特殊な食品です.一般に「とろみ剤」と呼ばれています.
多くの嚥下障害の患者さんは飲み物をスムーズにのみこむことができず,とろみをつけてからのみこんでいます.どうして飲み物が特にのみこみにくいのでしょうか?そしてとろみをつけるとどうしてのみこみやすくなるのでしょうか?
嚥下障害の患者さんは「飲み物」が苦手
私たちが何かをのみ込む際,のどに入った食べ物や飲み物が,気管ではなく食道へ入るよう,のみこみに関係する器官を無意識に調整しています.この調整システムは非常にすばやく機能しています.しかし嚥下障害のある患者さんは,システムが機能しなかったり,ゆっくりとしか機能しなかったりします.その結果食べ物や飲み物があやまって気管に入り込みやすくなっています.
それでも食べ物でしたら,ある程度口の中でとどまらせた上で,少しずつのどへ送り込んでいくことができますので,調整システムの動きがゆっくりでも対応しやすいです.
一方で飲み物は食べ物と違って形がないため,口の中でとどまりにくく,口に入れたと思ったらすぐにのどへ入り込んでしまいます.その結果調整システムの動きが間に合わず,飲み物は気管にあやまって入り込んでしまうのです.
飲み物と怖い「誤嚥性肺炎」
気管に飲み物が入り込むと,反射的にはげしい咳が生じます.咳をすることで気管に入り込んだ異物を排出するためです.しかし咳をする力が十分でないと,入り込んだ飲み物は気管から排出されず,肺へ移動して肺炎を生じることがあります.これを「誤嚥性肺炎」と言います.
誤嚥性肺炎は日本人の死亡原因の上位にランクインしている,怖い病気です.本学科の学生が目指す言語聴覚士は,患者さんが誤嚥性肺炎を生じないよう嚥下訓練や嚥下食の調整を行っています.
飲み物に「とろみ」をつけるにはテクニックが必要
飲み物にとろみをつける「とろみ剤」は,たくさんの種類が販売されています.病院・施設の売店はもちろん,薬局やドラッグストアなどでも販売されています.
とろみ剤はどれでもよいのでしょうか?実は製品によってとろみつき方が微妙に異なります.また,とろみをつけるのにもちょっとしたテクニックが必要です.とろみ剤を一気に入れてしまったり,とろみ剤のかき混ぜ方が不十分だったりすると,とろみが均一につかずダマになってしまいます.飲み物が熱すぎてもダマになりやすいです.飲み物の種類によっても,とろみのつきやすさに差があります.
慣れるとうまくとろみをつけられるようになりますが,慣れていても急いでいると失敗することがあります.
また,嚥下障害の程度によって,とろみを強くつけたり少なくつけたりする必要があるため,飲み物の量ととろみ剤の量をきっちり測る必要があります.
このようにとろみ剤の使用には,なかなか悩ましい問題がつきものでした.
いつでも均一なとろみを実現!"とろみボタン"付き「カップ式自動販売機」の開発
2018年,画期的な製品が開発されました.「とろみボタン」を押すだけで飲み物にとろみがつく自動販売機です.機械によって飲み物のの温度やかき混ぜ作業が均一化されているので,いつでもちょうどよいとろみがつくようになっています.しかも嚥下障害の程度に応じて、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの三段階から選ぶこともできます.
この機械の導入によって,とろみをつける作業が簡略化され,患者さんにいつでも均一のとろみがついた飲み物を提供できるようになりました.
嚥下障害があっても飲み物を楽しめるように!
以前は嚥下障害の患者さんと外出すると,ちょっとお茶をするのも簡単ではありませんでした.とろみ剤を持参しなくてはいけないし,とろみ剤をかみまぜるスプーンも必要です.缶飲料はかきまぜにくいから,カップに入った飲み物を選ばないといけません.その結果,飲みたいものを我慢したり,飲み物を購入すること自体あきらめたり,といったことがありでした.
一緒の空間で飲食をともにすると,コミュニケーションがより円滑に進みます.たった一杯の飲み物であっても,リラックスした雰囲気を作り出すことができます.
嚥下障害の患者さんがいつでもどこでも飲み物を楽しめるよう,とろみボタンつき自動販売機は広く普及していってほしい思います.
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