今年度の卒業研究発表会の様子をお伝えするシリーズ、最終回は山岸・伊藤ゼミの卒業研究発表を紹介します。
山岸・伊藤ゼミの卒業研究テーマは下記の通りです。
- マスク・シールド着用が音声周波数帯域に及ぼす濾波効果の測定
- 聴覚を活用した聾学校児童・生徒の歌唱におけるリズムパターンについて-「絆」斉唱の音響分析から-
- 聴覚を活用する聾学校児童・生徒のメロディ表出能力について-「エーデルワイス」歌唱時における基本周波数の変化から-
- マスク・フェイスシールド着用による語音了解度への影響に関する検討
- 教育現場における吃音の合理的配慮
- 発達障害児に対するペアレントトレーニングの文献的研究― 障害と支援形態の関連について ―
発表の中の一演題、「マスク・シールド着用が音声周波数帯域に及ぼす濾波効果の測定」を紹介します。「濾波」とは“フィルター”の意味です.
コロナ禍になってから,マスクやフェイスシールドを着用するのが当たり前の世の中になっています.しかし着用によって,相手の表情や口の動きが見えない,相手の音声の聞き取りが悪くなる,といった問題点もあります.
今回の研究では,3種類のマスクと2種類のフェイスシールドを用いて,それぞれで音がどの程度小さくなってしまうのかを測定しました.その結果,マスクの中でも,化学繊維と不織コットンを挟んだ重層構造になっているKN95マスクがもっと音が小さくなり,次いで化学繊維でできている不織布マスク,天然繊維でできているガーゼマスクの順に音が小さくなることがわかりました.また,不織布やガーゼマスクでは3~8dBの音の減衰にとどまるのに対し,フェイスシールドだと15~25dBにもなることがわかりました(ちょっと難しいですが,dBは音の大きさを表す単位です).そしてマスクでもフェイスシールドでも,全体的に高い周波数の音が小さくなりやすいことがわかりました.
言語音は,「あいうえお」のような母音と,それ以外の音である子音に分かれます.相手が何を言っているかを理解するには,子音を正しく聞き分けることが重要です.しかし子音には周波数の高い音が多く含まれるため,マスクやフェイスシールドで高い周波数の音が小さくなってしまうと,聞き手は子音を聞き分けることができず,音声言語によるコミュニケーションに支障を生じます.
音声言語の聞き取りに困難さを抱えている聴覚障害や失語症の患者さんの中には,マスクやフェイスシールドによって聞き取りがより困難になっている方もいらっしゃいます.マスクやフェイスシールドが音声言語の聞き取りにどの程度影響しているかの目安を示したこの研究は,今後言語聴覚士として働くときに役立つことでしょう.
ゼミ担当の山岸達弥教授は,この3月をもって本学を退官されました.最終出勤日の前に学科教員から花束と記念品が贈られました.
山岸先生は本学科の教員を17年間勤められました.山岸先生,長い間本当にありがとうございました!!
[su_button url="https://www.nuhw.ac.jp/faculty/medical/st/" target="blank" style="flat" background="#2db4ef" color="#f7f8f5" size="8"]言語聴覚学科の紹介はこちら[/su_button]