一般の方の中から,失語症者を支援する人材「失語症者向け意思疎通支援者」を養成する講習会について,シリーズで紹介しています.これまで講習会の概要,学科2年生の参加について紹介してきました.今回の最終回では,本学科3年生の関わりについて紹介します.
この講習会で3年生は重要な役割をしました!それは講習会で使用した動画への出演です.
複数の失語症者を対象としたコミュニケーション支援
講習会では,一人の失語症者を対象としたコミュニケーション支援だけでなく,複数の失語症者を対象としたコミュニケーション支援も学習します.
複数の失語症者を対象としたコミュニケーション支援とはどのような場面でしょうか?一つの例として,「失語症友の会」での支援が挙げられます.
「失語症友の会」は,失語症者やその家族同士が定期的に集まる会です.失語症者同士は近況報告やゲームなどレクリエーションを通して交流を深めます.家族にとっては介護で生じた問題点やその解決方法を情報交換できる場でもあります.
講習会の養成する支援者は,この「失語症友の会」で支援を行うことも期待されています.たとえば言語の理解障害により,失語症者同士で会話の内容が理解できなかったとします.支援者は失語症者双方の会話内容の要点を筆記して示し,お互いの会話が理解できるよう援助します.
また,ゲームの場面での支援も重要です.「失語症友の会」で行うゲームは失語症者でも楽しめるものですが,言語の理解障害の程度によっては,失語症者がゲームのルールを理解できないことがあります.その場合支援者は,ゲームのルール内容の要点を筆記して示し,失語症者がルールを理解するのを支援します.
コロナ禍で実習カリキュラムの実施が困難に
複数の失語症者を対象とした支援を学ぶために,講習会カリキュラムでは受講者が「失語症友の会」にお邪魔して実習することが想定されています.ところがコロナ禍の影響で失語症者とお会いするのは難しくなったため,一部の実習は来年度に実施することになりました.
しかし失語症の方と関わったことのない受講者には,「失語症友の会」の支援場面は想像がしにくく,講義だけで支援の方法を学ぶのは限界があります.
ゲームのシーンを学生同士で再現!
今回新潟で行われた講習会では「失語症友の会」でのゲームのシーンを動画で作成し,複数の失語症者を対象とする支援方法を学ぶ講義で使用しました.受講者は動画を通して「失語症友の会」の雰囲気や支援方法を学び,来年度実施予定の実習の参考としました.
動画の作成にあたり,現役の言語聴覚士(本学科の卒業生です!)が台本を構成し,本学科の3年生が失語症者役や支援者役,ゲームの司会をする言語聴覚士役となって演技をしました.
動画を作成した11月末は,出演した3年生たちが3週間の臨床実習を終えて帰ってきたところでした.学生たちは実習でお会いした失語症の患者さんや臨床場面での記憶をもとに,それぞれの役を演じました.
下記は,失語症者役を演じた奥山さんの感想です!
言語聴覚学科3年の奥山です.今回私は講習会の動画撮影に失語症役で参加させていただきました.動画を撮影する前は演技することにとても緊張していましたが,撮影が進むにつれ緊張がほぐれ,支援者役との掛け合いや演技を自分の思うようにすることができました.
動画では運動性失語症者役(発話面が特に障害されている失語症者)と感覚性失語症者役(言語の理解面が特に障害されている失語症者)をさせていただきましたが,それぞれを演じるにあたり難しいと感じる点がいくつかありました.
運動性失語の動画では,言葉がうまく出てこないもどかしさを表現することが難しかったです.言葉を詰まらせたり,アイコンタクトで伝えようとしたりと相手に言葉では伝わらないなりに,伝えようとする演技を頑張りました.
感覚性失語の動画では,病識(自分自身に言語障害があるという認識)があまりない様子を演じることが難しかったです.また,セリフ量が運動性失語に比べてとても多いので噛まずに言うことも難しかったです.常に笑顔でセリフを言うことで病識のなさを表現しましたが,たまにその笑顔を忘れてしまうこともありました.セリフに集中しながら,演技することの難しさを痛感しました.
運動性失語の患者さんは実習中に見学させていただく機会がありました.その際の言葉が詰まる感じや相手に伝えようとする感じを動画撮影中に意識して演技していました.実際に演じてみて,相手に伝わらないことが苦しく,辛いことが身に染みて分かりました.普段何気なく話していることがいかにすごいことかもよく分かりました.
奥山さん,感想をおよせいただきありがとうございました!
学科の講義を受ける学生は,言語障害のメカニズムや,評価・訓練のスキルを理解することに傾きがちで,患者さんの苦しみやつらい気持ちを想像するのは二の次になりがちです.
失語症者役を演じることは言語障害の理解を深めるとともに,障害を持った患者さんの気持ちを理解することにもつながります.ぜひこの演技経験を生かして,患者さんの内面まで寄り添える言語聴覚士を目指してほしいと思います.
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